「夢」の話。あなたは「夢」を持って生きていますか?

「将来の夢は何ですか?」

子供のころ大人たちから何度も問われた質問。

だから、きっとこの大人たちも、子供のころ夢見ていたなりたいモノになっているんだなぁ と、ずーっと思っていた。

私の父は製紙工場の工員で、母は専業主婦だった。

まず、身近な大人たちにこんな事を聞いてみた。

「お父さんは、紙をつくる人になりたかったんだよね?」

「お母さんは、”お母さん”になりたかったんだよね?」

たしか、答えは返ってこなかったと記憶している。

それでも私は、自分がなりたいモノにいつか大人になったらなれるんだ。と信じていた。

絵に描いたような夢見がちな子供で、水族館へ遠足に行けばイルカに餌付けをする人になりたかったし、演劇を見たら役者になりたかった。友達の前でもそれを堂々と宣言していた。

中学生に行くころから、周りでそんな話をする人がいなくなり、次第に自分もそういう”夢”の話をするのが恥ずかしい事なのだと薄々感じ始めていた。

あと5〜6年もしたら自分も”大人”になってしまう!でも、「これになりたい!!」という確固たるものが無い自分に焦っていた。

好きなことは、絵を描くこと、マンガも描いた。布で何かをつくることも好きだった。何かを作り出すことが好きなのだと思った。でも、それが職業とはうまく結びつかなかった。あと自分の好きなこと・・・ぼんやりと浮かび上がってくる。自分が心から「好きだ!!」と思えることがあった。それは”歌うこと”だった。

当時はニューミュージック全盛期で、エピックソニー三兄弟全盛だった。渡辺美里、永井真理子(ソニーではないが・・・)が大好きで、毎日部屋で一人コンサートを開催していた。

自分は歌うことが好きだし、上手いとさえ思っていた(この自信はどこから来たのであろう・・・)。自分の一番好きなこと。それは”歌うこと”だと思ったのだ。”歌う人”になりたいと思ったとき、私は高三。進路を決めなければならない時期になっていたのだ。

なりたい事が決まった。だけど、親や先生、友達には言えなかった。根拠のない自信はあったのに、自分以外の人に話すのがはばかられた。きっと、なれなかった時の為に保険をかけていたのだろう。その時は、「これは、今は自分の中だけの夢にして、秘かに育てて、いつか花が咲くはずだ」と本気で信じていた。すぐに”歌う人”ならなくていい。その為にはまず東京に住まなければ話にならないと思っていた。

そして私は、東京の信用金庫に就職が決まり、東京に住むキップを手に入れたのだ。東京に出るのに大学や専門学校への進学の選択肢は、私の中では無かった。とにかく、自活しながら”夢の花”を咲かせたい!!その一心だった。当時は高卒で就職することは珍しく無かったし、”信用金庫”という人聞きの良さそうな仕事に親も納得したことだろう。本人は全く別のことで頭がいっぱいだったのだが。

なんとか東京、夢の舞台での暮らしが始まったのだが、まさにそれは”暮らし”であった。

毎日毎日慣れない仕事、人間関係、寮生活・・・いつの間にかあの時抱いていた”夢”は忘れられていき、”暮らし”に忙殺されていったのだ。

それでも、何も行動を起こさなかった訳では無かった。まずヴォーカルの基礎を学ぼうと思い、とある学校まで行ってみたが、足がすくんだ。怖かった。コンテストにテープを送ってみようと録音まではしたが、送らなかった。送れなかったのだ。

これは、やりたい夢のために何かしたうちに入らないのかもしれない。あんなにあった自信が、みるみる小さくなっていった。大好きな渡辺美里の10yearsの歌詞が頭の中でずっとリピートする。

「大きくなったらどんな大人になるの

周りの人にいつもきかれたけれど

時の早さについて行けずに

夢だけが両手からこぼれ落ちたよ・・・」

こぼれ落ちたのだ。本当に。

それからの私は、こぼれ落ちた”夢”をそのままに見ないようにして過ごしていった。

あの日、父と母に子供の自分が無邪気にきいた質問が蘇った。答えられなかった二人の事を思う。そして、あの時の自分が今の私にきく。

「あなたは、信用金庫の人になりたかったんだよね?」

決してなりたかった訳ではない。

同じく上京した幼馴染は、子供の頃から友達の髪をいじるのが好きだったので、美容師になりたいという”夢”を実現した。キラキラした瞳を横目に、私は毎日やりたくもない、人様のお金を数えていた。もう”夢”という言葉は使わない。私の”夢”は、もう、グチャグチャになっていた。

それから数年経った。沢山の経験をした。それなりの生活も出来た。でも、どこかでポッカリと穴が空いているようだった。忘れてた言葉を思い出す。グチャグチャになってこぼれ落ちた”夢”は、形を変えてそこに存在していたのだ。私は40歳を過ぎた今、新たな道を歩き出す。

私の人生には”夢”が必要なのだ。

損か得かではない。達成出来るか出来ないかでもない。

私は今、”夢”と向き合っている。

「あなたは夢に向かって歩く人になりたかったんだよね?」

written by misoshiru